秘色研究所

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【APEX】キーマウとパッド、結局どちらが正しいのか

現代の宗教戦争「パッド・キーマウ論争」。

 

justshin.hatenablog.com

 

 

昔は今ほど大きな論争になっていなかったと記憶しているが、FortniteやAPEXの登場によってキーマウとパッドが同じ舞台で戦う機会が格段に増えたことでこの手の議論は大きくなってきた。

 

パッド使いのプロゲーマーに向かって「パッドとかエイムアシストのおかげ」なんて言葉をかける人。

そんな人に対して「強いと思うなら使えばいいじゃん?」などと議論を吹っ掛ける人。

そして、こんな論争に対して「そんな議論下らないし、どっちだっていいじゃん」と良識人を気取る人。

 

Youtubeのコメント欄やネット掲示板ではこんな人たちのお気持ち表明が溢れて、なかなかカオスな感じになっている。

 

現状に対して三人目の人のように、当たり障りのない「人それぞれ論」で解決した気になるのも一つの手だが、この記事ではあえて問題の核心に近づく努力をしてみたい。

ゲームのプレイ環境に関する諸問題を考えることは、FPSの未来を考えるうえで非常に有益だと思うからだ。

 

 

 

問題の争点

問題の争点はずばり「異なる環境が同じフィールドで戦かわされている」という点。

 

マウスに比べてパッドは「相手を狙う」という点でどうしても劣ってしまうので、この格差を是正するためにパッドには「エイムアシスト」というシステムが付与されている。

エイムアシストとは文字通りソフトウェア的にエイムを手伝ってくれるシステムで、相手に吸い付くような処理を行ってくれる。

PADを使う人間にとっては非常に助かるシステムで、これがないとキーマウに太刀打ちすることなどはほぼ不可能。

しかし、キーマウ勢にとってはこのエイムアシストの強さが不満となるわけだ。

以下各勢力の大体の主張。

 

PADの主張

「パッドはマウスに比べて操作性に劣るのだからアシストがあって当然。なにより公式が使用を認めているのだから文句を言われる筋合いはない。」

 

キーマウの主張

「我々は実力で敵を狙っているのに、パッドのアシストはズルい。完全に無くすべきとは言わないまでももっとアシストを弱めるべきだ。」

 

はたして正当性/正統性があるのはどちらの主張なのか。

 

FPSはもともとキーボードマウスで遊ぶゲーム

FPSというゲームジャンルはもともとPCで遊ぶことを前提に開発された。

「狙って撃つ」という操作体験とマウスの親和性は非常に高いし、FPSはそうしたマウスの特性を最大限に生かしたゲーム性を持っている。

 

こうした誕生の経緯を考慮すると歴史的に原初的な操作方法はキーボードマウスということになる。

 

実際のところ、現在でもFPSの競技シーンではキーボードマウスでのプレイが前提とされる場合が多い。

 

また、機械のアシストの介入する余地がないため、キーマウ勢の主張する「真の実力がプレイに出る」という言説もある程度説得力を持っているといえる。(パッド使用者の実力が低いという意味ではなく、プレイヤーの実力以外の要素が少ないから比較しやすいという意味)

 

以上のことをまとめると、「歴史的な正統性」と「競技シーンにおける能力の比較の容易性」という点でキーボードマウスの優位性が確認できる。

 

FPSというジャンルはコンシューマー(PAD)の市場で急成長した

歴史的な優位性をキーマウに認めたものの、ビジネスとしてのコンシューマー市場を無視することはできない。なぜなら現在、FPSのプレイヤーのうち大多数を占めるのはコンシューマー機でのプレイヤーであり、彼らはパッドを使用している。

 

つまり、いくらキーマウ勢が正統性を主張したところで現時点でのスタンダートはパッドでのプレイスタイルということになる。

 

また、ゲーム会社がコンシューマー機でFPSというコンテンツ文化を作り上げるにおいてメリットは3つある。

①ユーザー数がPCに比べて格段に多いこと

②すべてのユーザーが同じマシン条件でプレイしていること

③チート行為などがPCに比べて難しいこと

 

①は当然のことながらしっかりと収益をあげて、次回作の予算を確保するために重要。

②は開発やアップデートの容易さの点でメリットになる。(そもそもみんなが同じ環境なので今はなしてるようなキーボードマウス論争は起きない)

③は、ソニーマイクロソフトの強力なセキュリティにより守られているので、チート対策へのリソースをほかの部分に回すことができる。

 

このように、コンシューマー機はFPSというコンテンツを作り上げるにおいて理想の環境になっている。

現在のFPSビジネスを支えているのがコンシューマー市場であり、そこでのスタンダートはパッド。

 

PC版においても、世の中に大量にいるパッドプレイヤーを放したくないという点で、PCでのパッド利用を認める運営会社の考えは理解できる。

 

つまりここまでの話をまとめると、パッドには「マジョリティを占める民主主義的な正当性」と「ビジネス的な正義」があることがわかる。

 

パッドとキーマウ両方経験した僕の個人的な感想

僕はps4でFPSをプレイし始めて、PC(キーマウ)に移行したという経歴を持つので、両方の特性を感じてきたつもり。

 

僕としての結論は、

「1から8まで成長するのはパッドのほうが圧倒的に優位だけど、10にまで達するのはキーマウに優位性がある。」

ということ。(FPSの能力を最大10とした場合)

 

やはり初心者にとってエイムアシストというシステムは偉大で、何となくの感覚で敵に弾を当てられてしまう。

パッド初心者に負けてイライラしているキーマウ中級者も多いんじゃないかな。(実際のところネットでパッドをたたいている人はこの層だと思う)

 

しかしパッドで長らくプレイしていると、どこかで越えられない壁というか、ガラスの天井のようなものにぶつかる。エイムアシストがある故に、エイムにブラックボックスが生じて改善しきれない部分があるからだ。

 

そういう意味では自分の手の動きとエイムが一致しているキーマウでは、練習による修正がしやすい。

パッドで同じレベルの修正を行おうとすると、エイムアシストの挙動を完全に理解する必要があり、これにはキーマウを練習するよりもずっと大きな労力がかかる気がする。

これがパッドで10に到達するのが難しい理由だ。

 

結論どちらの主張が正しいのか

僕自身はパッドもキーマウも使えるし、どちらを使っても実力に大差ないのでフラットな立場からの意見だと認識しているが、現状キーマウ勢の主張に分があるように思える。

 

キーマウ勢としてはパッドを否定しているわけではなく、同じ土俵で戦いたくないと主張するにとどまっている。

これに対してパッド勢の中から、キーマウとパッドの分離論はあまり聞こえてこない。これは、パッド勢が自分たちの優位性を認識しながらもキーマウに対して優位に立てる現状を変えたくないと思っている一つの証拠だと思う。

 

やはり、キーマウとパッドでは特性が完全に異なるので同じ立場で競技を行うのは少し不自然に感じる。

 

具体的な施策としては、「もっとパッドとキーマウの力バランスを調整すること」と「キーマウとパッドを完全分離する」ことが考えられる。舞台が分かれれば無駄な争いも減るはず。

 

ただ一つ言いたいのは、パッド使いの上級者に対してチート呼ばわりするのは非常にナンセンスであるということだ。彼らの多くはエイムアシストを完全に制御下に置くレベルの並外れたテクニックを持った人たちで、常人のでは達せないレベルにいる。

競技者として尊敬すべき相手であることを忘れてはいけないと思う。